同音異義語の罠

エッセイ

私はハトが嫌いだ。

首を前後に動かして歩き回る姿、何を考えているか分からない目、車のエンジン音に怯えて急に飛び立つ腰抜け感。その全てが嫌いで、やむを得ず近くを歩くときは同じ空気を吸わないように息を止める。

小学2年生の春休みに家族で東京旅行に出かけた。ディズニーランド、東京タワーに浅草寺などベタな場所ばかりを回ったと思う。人生ではじめての東京だった。

パンダを見ようかとアメ横から歩いて上野動物園へ向かう。テレビのニュースではよく見るパンダが実は限られた動物園にしかいないことを知って驚いた。到着してみると、週に一度の休園日。ついていない。

またテレビで見ればいっか、とすんなり状況を受け入れたが、父はせっかく来たから動物と触れ合う時間をつくりたかったようだ。「あそこにいるハトにエサをあげよう」と指をさして言った。

上野動物園の周りには、台車を引いてポン菓子を売っている一人のおじさんとたくさんのハトがいた。やりたい!とおじさんのもとへ走り、ポン菓子を買った。

私がまいた先に一斉に群がるハト。右にまけば右へ、左にまけば左へ。まいたフリをしてもがむしゃらに地面を突くハト。私の動くままに踊らされるハトを見ているのが楽しかった。なんだか女王様になった気分。ケラケラ笑いながらポン菓子をばらまいた。

ハト使いも手馴れたとき、右肩がズンと重くなった。ふと目をやると、ハトと目があった。その距離はペットボトル1本分。クルックルッと喉を鳴らすハトの狙いは私の右手にあるポン菓子の本体だ。やばい、このままだとやられる、横目でハトの動向を気にしながら、精一杯の大声で助けを求めた。

 「オトーサーン、ハトとってーーー!!」

広場の隅にあるベンチに座っていた父が駆け寄ってきて、状況を察してくれた。よかった、これでハトを追い返してくれる、と思った。

「お、いいね、はいチーズ!」

それ以来、私はハトが嫌いだ。

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